[推薦の言葉]
『長江哀歌』の撮影のために、私は何度となく三峡地区を訪れている。それでもなお、フォン・イェンの『長江にいきる』には深い感動を覚えた。この映画は霧深い長江のほとりへと私を連れ戻してくれたばかりか、ビンアイという偉大な中国人女性に出会わせてくれたのだ。
何億という人々の心を動かした三峡ダム建設をめぐる出来事も、フォン・イェン監督の仕事がなければ、古新聞のネタの如く徐々に記憶から薄れていったかもしれない。百万人の生活に影響を及ぼした大変革も、『長江にいきる』がなければ、単なる官報上の一連の数字へと姿を変え、生命のこもった愛と痛みではなくなっていたかもしれない。
そういう意味で、『長江にいきる』は個人的な苦難を時代の変遷と結びつけた映画であり、権力と自由、生存の厳しさとの直面、生きる勇気を表現した映画である。ただの三峡についての映画ではない。急速な変化を背景とした、中国人の精神の歴史そのものだ。
ありがとうビンアイ、ありがとう馮艶監督。
〜ジャ・ジャンクー(映画監督『長江哀歌』『二十四城記(原題)』)

「愛」という言葉のみだりな使用はつつしみたいが、『長江にいきる』の素晴らしさは、そのショットのことごとくが「愛」を体現する被写体への「愛」からなっていることにある。
〜蓮實重彦(映画評論家)

吹きさらしの坂上の空き地で、小役人の饒舌に短く強く反駁するときの硬い表情。それと逆に、夜の教室に息子を訪ね、小遣いを手渡しながら語りかけるときの気遣いに満ちた顔。そして、川縁で、娘の頃のささやかな愛の思い出を吐露するときの笑顔。三峡ダム建設をめぐる映画は多々あるが、『長江にいきる』ほど深く、一人の女性の姿を掘り下げたものはない。そこから大地に根をおろした中国女性の、何ものにも屈しない心根が浮かびあがる。
〜上野昂志(映画評論家)

針仕事の手を片時も休めることのないまま、「私は何人もの命を奪った罪を背をっているのよ」と一人っ子政策の下での堕胎の経験を語るビンアイの表情は、突き抜けていた。土の上に立ち、体で働き、大いなる力に押しつぶされまいと全身で人生を耐えてきた彼女の顔に、巨大な「生」の威厳を見ない人はいないだろう。
〜西川美和(映画監督『ゆれる』『ディア・ドクター』)

自然を相手に、体を動かし、大地に根を張って生きてきた人は、哲学書など読まなくても人生の真髄に至り着くのかもしれない。
〜最相葉月(ノンフィクションライター)

[監督の言葉]
張秉愛は私がこれまでに出会った撮影対象の中で最も“予熱期間”が長い人だった。彼女が身の上話を打ち明けてくれたのは、知り合って8年経った後である。もうすぐ上がってくる水で家が沈み、最後の決断をしなければならないという大きな圧力を背負った時、過去の苦しい生活の思い出が堰を切った洪水のようにあふれでてきたのだ。私はこの潮衝に巻き込まれて流され、思うままに身動きができず、どこかでかつて聞いたことのあるような話に包まれて、相手の魂に触れた思いがし、一瞬の戦慄すら覚えた。
〜YIDFF2007 公式カタログ「監督のことば」より

[小川紳介賞] 選考理由
優しいまなざしで、カメラの対象であり友人であるビンアイを表現している映画『秉愛』にわたしたちはドキュメンタリーの持つ根源的な癒しの力を感じることができた。そして、それはまさに、本賞の意味である小川紳介監督が後輩の監督に伝えてくれる最高の助言であると信じている。
    
[コミュニティシネマ賞] 選考理由 
厳しい状況におかれた一人の女性に長期間寄り添うことで、夫や子どもたちとの暮らしの中に、ごく普通の人間の感情の豊かさ、ユーモアをみごとに描き出している。

[ロバート・クーラー] 評
<中国の国家官僚>vs<毅然とした農婦>の対決。美しい観察映画『秉愛』において、両者は互角の勝負だ。個人レベルで中国を見つめるドキュメンタリーが数多く発表される中でも、この作品はより多くの観客の心を動かす力強い一本である。息苦しい政府統括の下にある零細農家の生活の詳細な実態を、10年以上の歳月と愛情をもって描き出している。
〜『バラエティ』誌より

[春田実] 評
何がいいのかというと、主人公に魅力があるのだ。役所の人間の前では語気荒く丁々発止の交渉をするが、家族のところにもどると実にか弱くナイーブなのである。こう書くと、彼女の魅力はうまく伝わらない。しかし作品を見ていると、厚顔と自省と羞恥の間をゆり動く彼女の映像から、魂の叫びが聞こえてくるのである。その叫びに私は涙した。
それは共感というような次元ではなく、もっと人間存在の根源的な、ここに確かに人間がいる、というような洗い清められた発見の感覚と、感動なのである。見ていて途中からは、主人公の秉愛が出てくるだけで泣けた。こういう映像を導きだしたのは監督の力量である。7年という歳月をかけた取材(交流)の厚さもそれを支えている。
〜メールマガジンNEONEOより


> 一足先に見た観客の声


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