Yamagata Dojor

 

 

[目次]

◆ AIR (アーティスト・イン・レジデンス)参加作家(3組5名)

◆ 乱稽古(ワークショップ)に参加した作家(3名)

◆ 講師(メンター)(5名)

◆ 事業内容

◆ メディアでの紹介

◆ 制作物

◆ 参加者・メンターの感想

 

 

「山形ドキュメンタリー道場」は、アジア・ドキュメンタリーの聖地と呼ばれる山形県に、新作に取り組む映像作家たちが長期滞在し、国際交流を通して思考を深めるアーティスト・イン・レジデンス(AIR)事業です。ドキュメンタリー映画にとって、撮影後の映像素材をどのように編集するかが、作品の方向を定める決定的なプロセスです。本プログラムはこの段階を充実させるための時間と場所を提供します。

 

主なコンセプトは3つ:

 

(1)熟考する:日常を離れ、集中した時間と場所で製作中の作品を新たな目で見直し、問い返す。

(2)交流する:異国の仲間、映画関係者、地元の人たちとの交友で相互理解を深める。

(3)深化する:「乱稽古」で企画を発表し、自由な話し合いから新たな観点を発見する。

 

7回目の今回は、香港・ベトナム・日本の3組5人の映像作家が大蔵村・肘折温泉に長期滞在。プログラムの最初に、講師3人と短期滞在の3人が加わる集中的な「乱稽古」(ワークショップ)で刺激をしあう4日間があり、その後はそれぞれの作品とじっくり向き合う後半に入るプログラムでした。

 

今年は、肘折の地域住民と様々な交流が進み、参加者同士の横の連帯と切磋琢磨がひときわ深まった事業内容となりました。

 

 

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開催期間: 2025/1/29~3/2 (33日間) / 乱稽古(ワークショップ)は1/31~2/4 (4日間)
開催地: 山形県大蔵村肘折温泉、山形県国際交流協会研修室、山形市中央公民館大会議室、山形ドキュメンタリーフィルムライブラリー(山形市)
主催: ドキュメンタリー・ドリームセンター
  本事業は、一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)の共通目的基金の助成を受け実施されました
協賛: NPO法人Tokyo Docs
特別協力: オリオンのベルト、株式会社シーエスシー
協力: 認定NPO法人 山形国際ドキュメンタリー映画祭、山形県大蔵村肘折地区、大蔵村観光協会、肘折温泉旅館組合、在山形ベトナム人協会
後援: 山形県、山形県大蔵村

 


 

 

 

AIR (アーティスト・イン・レジデンス)参加作家(3組5名)

長期滞在を通して、制作中の作品に集中して取り組むプログラム

 

● 講師や短期滞在の制作者と共に4日間の乱稽古(ワークショップ)。各企画発表、質疑応答、討議にたっぷり時間をかけ、メンターの講義や上映、懇親会などに刺激の詰まった日々。
● 個別ミーティングで、講師たちと深く話し合い、課題を整理。
● 後半の2週間では、心身を蘇らせる温泉と地域の人々との交流にパワーをもらいながら、作品を新たな目で見つめ直し構成・編集の作業を進めた。
● 山形県在住ベトナム人に向けた映画上映会を開催。
● 山形市で各監督たちの旧作の上映会や市民と交流するイベントを開催。
● 一般公開で「山形ドキュメンタリー道場7 成果報告会」を開催。

 

 

『月は見ている Moon Is Watching You』

香港が民主化運動に沸いた、2019年の逃亡犯条例改正反対運動から5年。映像の断片を集め、詩人と共同執筆しながら、記憶を編纂しなおしたエッセーフィルムを作る。民主主義を求めるグローバルな闘いのあり様、そして今日の香港人が抱える喪失を見つめる。「恐れることはない。月が帰り道を教えてくれる」。

 

監督:馬智恆(マー・チーハン[マチ]) MA Chi-hang (Machi) (写真左)
プロデューサー:陳芷琪(キャサリン・チャン) Catherine CHAN  (写真右)

 

 

『土地へのノスタルジア Nostalgia for the Land』

ベトナム戦争後の貧困から脱却するため、中部高原に移住しコーヒー畑を開墾した一族。監督は自分の家族が、社会主義経済から自由な市場経済へと舵を切る急激な変化の中をどう生きてきたのか、コーヒー農場の労働に携わる3世代の若者たちのそれぞれの選択を記録する。

 

監督:ファム・ティ・ハオ PHAM Thi Hao (写真左)
プロデューサー:トリン・ディン・レ・ミン TRINH Dinh Le Minh (写真右)

 

 

『あいまいな喪失 Ambiguous Loss』

2011年3月、福島の原発事故以来、渡部家は避難生活を送ってきた。浪江町への帰還を断念し、家業の印刷業を廃業。自宅を解体して避難先に新居を建てる決断をした。まもなく100歳を迎えるテツ、息子の武政、その妻の茂子。老老介護、引越し、家族との衝突、テツの逝去。避難生活や家族の内実を綴った茂子の日記とともに、原発事故があらわにした「ありのままの自分」で生きようとする三人の葛藤を描き出す。

 

監督:山田徹 YAMADA Toru

 

 

乱稽古(ワークショップ)に参加した作家(3名)
4日間のプログラムで製作中の映画企画を発表し、ディスカッションを通して切磋琢磨した。

 

田中夢(東京都) 「家族だった私たちは」 We Were Family

 

川島佑喜(東京都) 「36.3」

 

中村洸太(京都府) 「展示館より」

 

 

 

講師(メンター) (5名)
ワークショップ、講演、個別ミーティングを通して、参加者が映画企画を前進させるための手助けをしていただいた。

 

秦岳志(豊中市、映画編集者・プロデューサー)

 

オスカー・アレグリア(スペイン・パンプローナ、映画作家) Oskar Alegria

 

キム・ドンリョン(韓国・ソウル、映画作家) KIM Dong-ryung (写真右)
パク・ギョンテ(韓国・ソウル、映画作家) Park Kyoung-tae (写真左)

 

渡辺祐一(東京都、映画配給宣伝)

 

 

事業内容

乱稽古(2025/1/31~2/3)

大蔵村肘折温泉で滞在しながら、企画発表、マスタークラス、ディスカッションや実習がぎっしり詰まった、4日間の濃厚なワークショップを行った。参加者は13人、スタッフとオブザーバーは12人。



Movie Night (2/3)

編集室で長期参加者の旧作を講師と共に見て、それぞれのこれまでの映画作り、これからの映画づくりについて話し合った。

個別ミーティング(2/4)

乱稽古のグループディスカッションで刺激を受けた長期滞在作家は、4人の講師と個別に面談し、ゆっくりと話し合う時間をもった。



引っ越し(2/4、2/10、2/18、2/22)

参加者は滞在期間中、5つの宿にそれぞれ転宿。湯治場のたくさんの旅館に分宿することで、地域の人たちとの関係づくりや配分への配慮から考案されたスタイル。



Movie Night (2/7)
「My Mother is A Noh Actor」(製作:キャサリン・チャン) 
編集室で編集中の映画を内部試写後、作品について語り合った。

ヨガ教室(2/13)

チラシを作成して村の人に呼びかけ、6人の参加を得てヨガ教室を開催した。講師はキャサリン・チャン。

Movie Night (2/14)

ハオのセレクションで1989年のベトナム映画

編集室で上映後、ベトナム社会の歴史と変遷、検閲と映画製作について語り合った。

在山形ベトナム人向けの上映会 (2/16)

山形市内の霞城セントラルで、「ベトナム映画「こんなにも君が好きで goodbye mother」をみんなで見る会」をMSY在山形ベトナム人協会と共同で開催。本事業参加の監督トリン・ディン・レ・ミンと映画づくりの舞台裏を含めて自由にベトナム語で話し合えた。33人が参加。

Movie Night (2/18)

「Ballad on the Shore」(監督:マー・チハン)

Movie Night (2/19)

「曖昧な喪失」新カット(監督:山田徹) 

企画分析ワークショップ(2/20)

山田徹の製作中の自作をワークショップ・コーディネーターのキャサリン・チャンと解体、分析。プロデューサーの加藤成子さんがオンラインで参加。

ヨガ教室(2/20)

チラシを作成して村の人に呼びかけ、宿泊客を交えた11人の参加を得てヨガ教室を開催した。講師はキャサリン・チャン。

Movie Night (2/21)

「雪解けのあと」(ルオ・イシャン監督)
山形ドキュメンタリー道場5(2023年)の参加作家(台湾)の完成作品を上映後、プロデューサーのチェン・ヨンシュアンとオンライン通信を使って作品について語り合った。

地面出し競争 World Cup (2/23)

肘折名物のイベントに「道場破り」チームとして出場。雪の下を土が出るまで掘り進みスピードを競う。3m17cmの雪を36分17秒で掘って奮闘し、競技は39組中25位でゴール。場所選びの順番を決めるソリ競技では2位!



Movie Night (2/26)

「雪の詩」(1976年/波多野勝彦監督)

「松屋の松太郎さん」(2024/小森はるか監督)

肘折センターで一般公開の上映会。村の人を迎えて15人が参加。50年前に肘折温泉で撮影された劇映画と昨年の道場参加監督によるFaces Yamagata シリーズの一編を上映。



作品と向き合う、それぞれの作業




進捗発表会 (2/7、2/14、3/27)

滞在中、各自でそれぞれの企画を進めながら、ときおりミーティングをして進行状況を共有し支えあっていった。

国際交流会(2/28)

山形国際ドキュメンタリー映画祭の企画。英語で交流したい高校生を含む一般66人が参加。道場参加の映画人たちは香港やベトナムの暮らしを紹介した。グループに分かれて英会話を練習するイベント。10~20代が77.1%。

山形市で上映会 (3/1)

山形国際ドキュメンタリー映画祭(YIDFF)主催の「金曜上映会」で、参加監督の旧作「ゾウは売り物じゃない」「全記フェリー」(マー・チーハン)と「ブアさんのござ」(ファム・ハオ)、「あいまいな喪失」(短編/山田徹)を上映。山形ドキュメンタリーフィルムライブラリーで、参加者約30人と質疑応答を行なった。



山形ドキュメンタリー道場7 成果報告会 (3/1)

プログラムの最後に、長期滞在の5名が成果報告会を行った。滞在の経験と感想を、写真を使いながら振り返った。滞在中に撮った動画も上映。終了後はロビーで交流会が開催され、集った人たちと感想を分かちあった。

ショートフィルム FACES Yamagata

肘折温泉での滞在中に長期滞在の5人がそれぞれスマホ等で自由に記録した映像作品を発表。YouTube上で公開した。

 

 

メディアでの紹介

山形新聞 「アジア映像作家『乱稽古』」(2025/2/1)

 

山形新聞 やまがたニュース解説 「『映画の街』根付かせる場に」(2025/2/16)
「……今年の米アカデミー賞で日本のドキュメンタリー2作がノミネートされるなど関心が高まっている今、道場や映画祭は山形の存在を示す絶好の機会でもある。「山形が見るだけではなく、作品が生まれる場として広がっていけばいい」と藤岡さんは語る。県民が関わり合うことが、映画の街・山形につながる。」

 

ポドキャスト: アカリノラジオ 2025/3/14~ 配信
「映画の道場:山形ドキュメンタリー道場に参加した作家たちの声をお届け!」

 

 

制作物

 

参加者募集チラシ(日本語、B5カラー) 、募集広報カード(名刺大)

 

 

全企画・参加者紹介の小冊子(B5 日英30ページ)、各種フライヤー(YIDFF制作)



 

事業の記録動画(2パターン)制作中 - by 福原悠介

 

 

参加者・メンターの感想

 

・映画を深めることは、人生と向き合うことであり、その逆もまた然り。道場は、単なる技術指導や批評し合う場ではなく、映画と人生をより豊かなものにするために支え合う場所なのだと感じました。

 

・自信や決断力、映画を信じる力を失いかけていました。しかし、道場で出会った作家たちの支えや励ましを受け、再び映画と向き合う力を取り戻しました。

 

・新しい生き方や映画に対する考え方を見つめ直す最高の環境です。こうした場で各国の作家たちと時間と空間を共有することで、創作意欲が湧き上がります。そして、映画制作に新たな視点をもたらし、作品を前に進める力を育むことができると実感しています。

 

・カメラをきちんと存在させて被写体の方々と一緒に作り上げていくドキュメンタリーの形に感銘を受けたので、今後の制作に活かしていきたい。

 

・今だにあれが現実だったのか、にわかには信じ難いほど夢のような時間でした。

 

・人混みからも、オンラインのコミュニケーションからも、慌ただしい日常からも遠く離れた肘折で、文字通り朝から晩までドキュメンタリーについて、そして答えのない問いについて、時間をかけて思いを巡らせる、至福の時間でした。

 

・制作中は映画に映る方を不安にさせてはいけないと思い、誰にも言わずに自分の中だけに留めている悩みや迷いがあります。乱稽古には、それらを言葉にする時間を尊重して待ってくれる、そして一緒に考えてくれる、セーフスペースがありました。

 

・たった4日間の作家たちとの交流が、こんなにも自分を耕してくれるのかと驚かずにはいられません。

 

・今回の経験は間違いなく今後の制作の心の支柱になりますし、ここでの議論を折に触れて思い出すことになるはずです。

 

・ただ会話を重ねたのではなく、風呂に入るとか、食べるとか、歩くとか、明らかに身体的なあれこれを重ねていくうちに、言外に相手が今何を考えているのか、どんな方向に議論を持っていきたいのかがわかるようになっていきました。

 

・創作の初心に還る体験は今後の活力となりました。

 

・脚本と構成を、仲間のアドバイスを得ながら深く考え直し、書き直せました。

 

・企画の焦点が定まり、歴史とグローバル世界の中で相対化してとらえられるようになりました。

 

・次に国際市場での資金獲得やクラウドファンディングで訴える内容が固まりました。

 

・他の参加者の編集者・プロデューサーから具体的で決定的なアドバイスを得られました。

 

・皆で映画をたくさん見たことで方法の多様性を実感し、視野が広がりました。

 

・ひとりの限界を自覚し、他者の目から自作を考え直せました。

 

・構成と方向性がはっきり見えたので、あとは手を動かして編集するところまで来ました。

 

・言葉の壁は、肘折の村の人たちに対して感じる親しみの障害になりませんでした。 

 

 

 

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