
「山形ドキュメンタリー道場」は、アジアのドキュメンタリー制作者のためのアーティスト・イン・レジデンスです。2018年から山形県の蔵王温泉と肘折温泉で、これまで7回の開催を重ねてきました。その始まりには、アジアのドキュメンタリーをとりまく状況への不満がありました。激増するピッチング・セッションと効率重視の国際共同製作システムが、しばしば映画作家のエネルギーを吸い上げ、その独創性と独自性を奪っているように見えます。優れた作家が必ずしも英語で企画を売り込むことに長けているわけではなく、資金提供者やディシジョン・メイカーとの力関係が、ときに映画の核心を損なうからです。
「道場」が目指すのは、そうではない――クリエイティブ・ドキュメンタリーの新しいコレクティブです。年齢、ジェンダー、キャリア、語学力を問わず、すべての参加者に〈思考を深める安全な時間と空間〉と〈新しい仲間との出会い〉、そして〈至福の温泉〉を提供します。長期にわたり独りで撮影を続けた作家が、膨大な映像素材をどのように構成し、編集していくのか。ドキュメンタリーの制作において決定的となるポスト・プロダクションを充実させることで、映画をより豊かなものにする一助となります。メンターたちは「私ならこうする」とアドバイスするためではなく、制作者が自ら心をひらくように、ともに問い、交感するために招かれます。答えは、作家自身のものでなければならないからです。

本企画では、「道場」から生まれた映画や参加者の作品を上映し、作家やメンターによるトークセッションを行います。気鋭のアーティストとして国内外の映画ファンを魅了する小田香の『セノーテ』や小森はるかの最新作『春、阿賀の岸辺にて』。唯一無二の作品として観客動員を伸ばし続けている坂上香の『プリズン・サークル』や藤野知明の『どうすればよかったか?』。『雪解けのあと』の公開を目前に控えた台湾の新鋭ルオ・イシャンの『それから』。ベルリン国際映画祭ほか世界で激賞されたフィリピン出身のヴェニス・アティエンザの『海での最後の日々』など、日本初上映作品を含む多彩な〈クリエイティブ・ドキュメンタリー〉をぜひスクリーンでご覧ください。
そして、「道場」の名物プログラム、「乱稽古」と呼ばれるワークショップを東京で行います。初めに参加者がフッテージやラフカットを上映し、プレゼンテーションを行ないます。その後、ゆるやかな司会と日英同時通訳のもと、他の参加者とメンター全員で時間の許す限り意見を交換します。映画作家は、他者の声を聞き、問いに向き合うことで、自分自身の声と出合い直すことになります。この「いままさに映画が生まれようとしている時間」を初公開します。

2019/坂上香/136分
Prison Circle by Sakagami Kaori
受刑者同士の対話をベースに更生を促す「TC(回復共同体)」というプログラムを日本で唯一導入した官民協働の刑務所で、人生と向き合う若い受刑者たち。日本の刑務所に初めてカメラを入れた圧巻のドキュメンタリー。

2025/福原悠介/日本初上映

坂上香&藤岡朝子(ドキュメンタリー・ドリームセンター)

2023/工藤雅/6分
Tracing for Traces by Kudo Masa
100年前に建てられた父の家がまもなく取り壊される。過去と記憶をフロッタージュの手法でフィルムに記録したアニメーション・ドキュメンタリー。

2024/大場丈夫/80分
Just the Way You Are by Ohba Takeo
茨城県にある私塾「轍(わだち)学舎」。元教員の柳田尚久塾長を慕って、不登校の中学生たちがやってくる。子どもたちの尽きない悩みに粘り強く対峙する塾長の奮闘と心の交流をダイレクトシネマ的な手法で描く。

2023/菊地翼/13分

大場丈夫&竹藤佳世

2025/田中健太/77分
The Shape of the Wind by Tanaka Kenta
豊かな自然に囲まれた全寮制の黄柳野(つげの)高校では、不登校など、さまざまな過去を持つ生徒が学び、暮らしている。監督は、自身の母校でもあるその学舎で、悩み傷つきながら成長していく高校生たちに寄り添う。

2018/岡達也/6分

田中健太&坂上香

2018/台湾/ルオ・イシャン/30分
Afterwards by Lo Yi-Shan
『雪解けのあと』の前身となった短編習作。大自然の中で親友が消えた。少年と少女は、親友が残した最期の言葉に敬意を表し、生き残った理由を追求する。悪夢と記憶、過去が現在にそっと溶け込んでいく。

2023/ルオ・イシャン/5分

ルオ・イシャン
小田香ほか、メンター・参加者など

2019/池添俊/19分
See You in My Dreams by Ikezoe Shun
育ててくれた祖母が、過去に愛した人のことを話してくれたその矢先、彼女は倒れて記憶が混濁する。「記憶の夢」を見る祖母の記憶を8mmフィルムで綴る。

フィリピン・台湾/2021
ヴェニス・アティエンザ/72分
Last Days at Sea by Venice Atienza
12歳のレイボーイは進学のために故郷の漁村を離れることに。監督は、彼と島での最後の日々を過ごす。星や海の動きを観察し、雲のかたちを読み解き、永遠のような時間をともにする。ベルリン国際映画祭で激賞された傑作がついに日本初上映。

2019/池添俊/8mm作品/3分

ヴェニス・アティエンザ&岩崎祐

2019/小田香/75分
Cenote by Oda Kaori
メキシコ・ユカタン半島の洞窟内にある泉セノーテは、マヤ文明時代の唯一の水源。かつて生け贄が捧げられた場所でもある。現世と黄泉の世界を結ぶと信じられていたセノーテをめぐる過去と現在の記憶が、圧倒的な映像と音響で紡がれる。

2021/戸田ひかる/31分

小田香&ルオ・イシャン

2024/藤野知明/101分
What Should We Have Done? by Fujino Tomoaki
統合失調症の症状が表れた姉と、彼女を受診と治療から遠ざけた両親。弟である監督は、20年にわたりカメラを通して家族と対話を重ね、社会と隔絶した家と姉の姿を記録した。タイトル通りの正解のない問いが、観る者を捉えて離さない。


藤野知明&奥間勝也

2022/中村洸太/77分
Polan by Nakamura Kota
35年間にわたって愛されてきた、東京郊外の古書店「ポラン書房」。コロナ禍中、閉店が告知される。店で生きる人々の閉店までの日常とその後の軌跡を静かに記録する。

2025/福原悠介

中村洸太&渡辺祐一(映画配給会社アギィ)

2023/川上アチカ/111分
With Each Passing Breath by Kawakami Atiqa
芸豪と称えられた浪曲師・港家小柳にほれ込み、伝統芸能の世界に飛び込んだ小そめが、晴れて名披露目興行の日を迎えるまでを描く。小そめと同じく小柳の虜になった監督が8年の歳月をかけて完成させた共振する魂の記録。

2021/川上アチカ/9分

川上アチカ&秦岳志(映画編集)

インドネシア/2023/リアル・リザルディ/
116分
Monisme by Riar Rizaldi
世界で最も活発な成層火山のひとつであるムラピ山を舞台に、人間と自然の関係をダイナミックに描く。噴火が断続的に続く中、火山学者、鉱夫、シャーマンといった火山と密接なつながりを持つ人々をキャストが演じ、虚構と現実が錯綜する。日本初上映。

2022/リアル・リザルディ/5分

矢田部吉彦(プロデューサー)&ふくだぺろ

2024/奥間勝也/115分
Close to the Bone by Okuma Katsuya
沖縄戦の戦没者の遺骨を40年以上にわたり収集する具志堅隆松さん。その活動を記録する一方で、監督は沖縄戦の膨大なアーカイブ映像に目を凝らしながら、自問し続ける。出逢ったことのない人の死を悼むことはできるのか?

奥間勝也&山崎裕(撮影監督)

2025/小森はるか/恵比寿映像祭2025コミッションプロジェクト作品/64分
Spring, on the Shores of Aga by Komori Haruka
新潟水俣病の患者運動の支援者、旗野秀人さんは映画『阿賀に生きる』(1992年/佐藤真監督)の発起人。現在も「冥土のみやげ」企画という“文化運動”を一人で続ける旗野に惹かれた作者は、阿賀野川流域へ移住し撮影を続ける。

2024/小森はるか/15分

小森はるか&遠山慎二(映画編集)

フィリピン・台湾/2021/
ヴェニス・アティエンザ/72分
Last Days at Sea by Venice Atienza
2回目上映

Documentary Dojo 4」
2022/5分/ヴェニス・アティエンザ
2023/3分/チェン・ヨンシュアン

ヴェニス・アティエンザ&大塚竜治(映画監督『石門』)
〈Faces 山形〉シリーズは「道場」の長期参加者たちが心に残った人や出来事を短編動画にした作品です。一か月間の滞在でお世話になった地元へのオマージュでもあります。
開催日時:6月9日[月] 17:00~20:30
会場:専修大学 神田キャンパス10号館15階 グローバルフロア
山形ドキュメンタリー道場の名物ワークショップ「乱稽古」が東京に! 制作中のドキュメンタリー企画のプレゼンを受けて、ルオ・イシャン(「雪解けのあと」監督 / 台湾)、チェン・ヨンシュアン(「雪解けのあと」プロデューサー)、ヴェニス・アティエンザ(「海での最後の日々」監督 / フィリピン)、秦岳志(映画編集)、その他の映像制作者がディスカッションします。「私ならこうするけど」と持論を押しつけるアドバイスは禁止! オブザーバー参加はPeatixから2,500円のチケットを購入してください。
専修大学神田キャンパス10号館
3階黒門ホール
東京都千代田区神田神保町3丁目4−4
JR「水道橋」駅西口より徒歩7分
東京メトロ「九段下」出口5より徒歩1分
「神保町」出口A2より徒歩3分
専修大学のプログラムのチケットはこちらPeatixサイトからご購入ください
一回1,500円/専修大学学生(学生証提示)無料

東京都渋谷区円山町1−5
「渋谷」駅下車、Bunkamura前交差点左折
TEL:03-3461-0211
一般1,900円/大学・専門学校生1,400円/会員・シニア1,300円
高校生800円(オンラインは900円)/中学生以下500円(オンラインは600円)
チケット(オンライン)▶
作品提供・協力:アカリノ映画舎、淺野由美子、池添俊、岩崎祐、大塚竜治、大場丈夫、奥間勝也、小田香、川上アチカ、工藤雅、久保田ゆり、小森はるか、坂上香、スリーピン、竹藤佳代、テレザ、東風、遠山慎二、中村洸太、ななし、ノンデライコ、秦岳志、ふくだぺろ、藤野知明、ホアン・ジー、山形国際ドキュメンタリー映画祭、矢田部吉彦、山崎裕、ヴェニス・アティエンザ、チェン・ヨンシュアン、ルオ・イシャン、リアル・リザルディ、スヴェミルコ・フィルム
運営協力:映画祭を解剖する! 運営メンバーほか有志|助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京[東京芸術文化創造発信助成]
